送水口に幸あれ

昨年末、宇部の工場を観るために山口県へ訪れた翌日。
次の目的地へ向かうためのレンタカーを借りに一瞬だけ立ち寄った下関の漁港近くで、送水口がじっとしていた。





外壁が壊れている。
ここは立体駐車場の入り口で、左側にも車止めのスペースがあるので、
遠慮を知らない車が送水口のその小さな胸の中へ飛び込んでしまったのだろう。
当然、いたいけな送水口はブロークンハートである。
ベニヤで元あったような四角い形をなんとか保ってはいるものの、
すき間があったり、ベニヤがささくれていたりして、少し痛々しい。
ひょっとしたら送水口の顔は事故の後に新調したものかもしれない。



中はどうなっているんだろうとすき間から覗いてみたけど、暗くてよく見えなかった。
いま思えばどうしてそんな、秘密の部分を暴こうだなんてハレンチなことをしたんだろうと自問する。



こんなひどい目に遭いながらも、潮風に耐えて送水口はがんばっている。
いつ来るとも知れない、来てはならない出番に備えて、
あっけらかんとした様子で。

これ以上、惨劇に見舞われることのありませんように。
送水口が幸せでありますように。